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第27回日本IVF学会学術集会に参加して2024年10月15日
培養士の田中です。
10/5~10/6に東京の京王プラザホテルにて開催された「第27回 日本IVF学会学術集会」に、蔵本院長、水本培養室室長と参加してきました。
今回の私の発表内容について紹介させていただきます。
私の演題は「胚盤胞における凍結時の収縮度合と培養時の虚脱の回数は関連するか?」というものです。当院ではこれまでに胚盤胞を凍結する際の胚の収縮度合が臨床成績に影響することを報告しています。一方で、培養時に虚脱と拡張を繰り返す胚は臨床成績に負の相関があることが知られています。今回、胚盤胞凍結時の収縮度合が小さいほど培養時の虚脱と拡張の頻度は低く、このような胚盤胞では生児獲得率が高くなることが分かりました。当院では胚盤胞移植を行う際に、胚の細胞数以外にも胚齢や分割期での状態、直径の大きさなど様々な観点から評点し移植胚を選択しております。今回の治験の結果も胚の評価基準に組み込み、患者様のより迅速な生児獲得へと繋がる良好胚を選択できるようにしていきたいと思っております。
パース(オーストラリア)で開催されたオーストラリア、ニュージーランド生殖医学会(FSANZ2024)に参加して(培養室レポート)2024年9月27日
培養室の水本です。
9月14~17日にパースで開催されたFertility society of Australia and New Zealand (オーストラリア・ニュージーランド生殖医学会;FSANZ)の学術集会に、院長、蔵本和孝医師、私の3人で出席しました。暑い日本を離れ、過ごしやすい春のオーストラリアでしっかりと研修させていただきました。
オーストラリアは畜産国のため、古くから繁殖増進を目的とした配偶子(卵子・精子)および受精卵(胚)に関する研究が盛んに行われています。不妊治療を目的とした体外受精技術にもイギリスと並んでいち早く取り組み始め、世界の最先端を走っている国の1つです。それに相応しくAIを駆使したARTの全自動化システムや器具開発についての報告がある一方で、新鮮胚移植と凍結融解胚移植の比較など、日本では10年以上前に行われていたような研究も多く見られ、各国の治療方針の違いが垣間見えました。日本の体外受精児は90%以上が凍結融解胚移植によって得られています(ARTデータブック最新版より)。今回、FSANZの年次報告にも出席しましたが、オーストラリア・ニュージーランドの出生児に占める凍結融解胚移植の割合は37.3%との事でした。
印象に残っている発表として、「“The compassionate Freeze”. A study on embryologist’s decision making in utilizing poor quality blastocysts for poor prognosis patients.」という演題を紹介したいと思います。内容を一言で言うと、胚培養士が胚の凍結を行う判断に患者背景が影響するのかを調べたものです。
胚の凍結は、日々観察を行い形態的に良好なものを選別して適切なタイミングで行っています。しかしながら我々も人間ですので、たとえ形態不良であっても受精卵を廃棄するには抵抗があります。過去に妊娠・出産した経験がある方の場合は「形態不良でも妊娠出来るかな?」と思ったり、逆に培養成績が芳しくない方の場合は「形態不良だけど凍結してあげたいな…」というのが心情です。ところが実際は、形態不良胚の妊娠率は患者背景に関わらず著しく低いというのが現実です。
今回紹介している演者らの施設では、凍結を行う胚培養士を“患者背景を考慮する群”と“患者背景をシャットアウトする群”に分けたところ、前者の場合に形態不良胚まで凍結する確率が高くなったとの事でした。
本発表を拝聴し、「どの国の胚培養士も同じ事に悩んでいるのだな…」と思うと同時に、患者様を思っての判断によって逆に妊娠までの期間を延ばす可能性がある事、特に日本の場合は保険の治療回数を消費する可能性がある事を痛感しました。
最後に一言付け加えさせていただきます。
当院の胚培養士は、皆様の背景をきちんと理解した上で、明確な基準に則って胚凍結を行っております。また、より多く良好胚を得るための研究を日々行っております。その点ご安心ください。今後も色々な視点の情報をインプット・アウトプットし、より良い治療に繋げて行きたいと思います。
アシステッドハッチングや卵子の細胞質置換などを考案されたJaques Cohen氏と。この分野のレジェンドです。現在はART全自動化システムの研究・開発に取り組まれています。
第42回日本受精着床学会(大阪)に参加して2024年8月28日
培養士の水本です。
8/22~23に大阪国際会議場で開催された日本受精着床学会学術集会に、蔵本院長、長尾培養室主任と参加してきました。今回当院は3演題の発表を行いましたが、私からはその内容について紹介させていただきます。
長尾主任の演題は「TESE-ICSIにおける奇形精子使用の影響」というものです。
我々が通常顕微授精(ICSI)を行う際は、運動能の高い形態良好な精子を選別して使用しますが、精巣内精子を使用する場合(TESE-ICSI)や重度の乏精子症の場合は、精子の選択肢が少なく苦慮する事があります。今回、当院で実施したTESE-ICSIの結果を集計し、精子の運動能と形態毎の臨床成績を比較したところ、運動能が低い場合であっても正常形態精子を使用した方が受精率と培養成績が良くなる事が分かりました。
今後も引き続き検討を行い、精子選別に関する明確な基準を定めたいと思います。
私は今回2題発表の機会をいただきました。
初日には、”先進医療の将来展望” というセッションにおいて「PICSIの現在とこれから」と題した発表をさせていただきました。
PICSIとはヒアルロン酸を使用して良好な精子(成熟した精子)を選別する技術の事です。2022年4月からの不妊治療保険適用に際して特定の技術が先進医療に選定され、保険収載に向けて日々臨床研究が行われています。PICSIもその技術の1つであり、私からは現在までのPICSIの成績と今後の展望について報告させていただきました。
現在、先進医療の多くは適応症が限定されている状況です。当院は保険適用以前からPICSIを採用し良好な成績を収めており、今後より多くの方に技術を提供出来るよう活動を続けて行きたいと思います。
最終日には、”How do Antioxidants work in the culture medium?” というセッションを、メルボルン大学のDavid Gardner教授と2人で担当させていただきました。
Gardner教授は培養液の研究を始めとし、世界中で使用されている胚盤胞の評価方法を立案されるなど著名な先生です。当院はこれまでに先生方の研究室と共同で抗酸化物質を添加した培養液に関する研究を行っており、特に高齢患者の臨床成績向上に有効である事を明らかにしています。今回先生から抗酸化物質が培養液中で働くメカニズムについて、私からは「抗酸化物質を添加した培養液の臨床転帰について」というテーマでこれまでの臨床成績を報告させていただきました。
我々培養士は日々皆さまの卵子・精子・受精卵を取り扱っております。受精や発生(胚の発育)は本来卵管や子宮の中で起こるものであり、ほんの少しの事で成績が左右されます。今後もより良い治療を提供するために研究を行い、結果を発信していきたいと思います。
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培養士の長尾です。
8/22~23日に大阪の国際会議場にて開催された「日本受精着床学会」に蔵本院長、水本室長とともに参加してきました。この学会は毎年この時期に開催されており、全国の医師や看護師、培養士などが多数参加しております。私は1日のみの参加でしたが、他施設の培養士の方々、企業の方々と意見交換をしたり、さまざまな発表を聞いたりすることで最新の知見を得ることができました。また、世の中にはChat GPTといったいわゆるAIが広まってきていますが、不妊治療分野にもその波がきており、AIに胚を評価させる、AIに分析をさせるなどといったAIを活用した発表も多数見られました。
不妊治療に関わる技術は日進月歩です。このような学会で得た知識をクリニックに持ち帰り、不妊に悩む患者様の力に少しでもなることができればと思います。
卵巣凍結の現場を見学して2020年2月7日
12月7日から12日まで、「卵巣凍結技術」の研修のためドイツのデュッセルドルフ大学病院に蔵本院長、水本培養室長と私の3人で見学に伺いました。日本においては発展途上の技術ですが、ドイツにおいては盛んに行われております。
がんや血液疾患に伴う化学療法や放射線療法は、卵巣機能に影響を及ぼす恐れがあります。卵巣凍結は、そのような病気になってしまった患者様の妊孕性を維持するのに適した技術の一つです。化学療法などの治療を行う前にあらかじめ卵巣組織を採って凍結しておき、治療後妊娠の許可が出れば、凍結していた卵巣組織を体内に戻し卵巣機能が回復してくるのを待ちます(図1)。場合によっては治療前と同等の卵巣機能を回復し、自然妊娠に至ることも可能になります。
メリット :卵巣機能の回復が見込める、卵子凍結に比べて多くの卵子を保存し得る、卵巣刺激の必要がない、小児患者でも可能
デメリット:腹腔鏡または開腹手術が必要で侵襲性がある、卵巣にがんが混入していた場合再発の可能性がある
【卵巣凍結技術】
➀がんなどの化学療法や放射線治療法等の前に、腹腔鏡または開腹手術により卵巣またはその一部を摘出します。
➁摘出した卵巣組織を細かい切片に切りとります。
➂卵巣組織に凍結のダメージから保護する凍結液を浸透させます。
➃プログラムフリーザーという機械を用いてゆっくりと凍結していきます(緩慢凍結法)。
➄液体窒素中で保存。半永久的に保存する事が可能です。
➅がんなどの治療が終了した後、担当医の許可を得た後に保存していた卵巣組織を融解。
➆融解した組織を腹腔鏡を用いて体内に戻します。うまく生着することができれば、治療前と同等の卵巣機能を取り戻す可能性もあります。
ドイツでの卵巣凍結は、Erlangenで1992年に、地域的な医療としてスタートしました。その後2003年にBonnで1施設目のCryoBankが設立し、あらゆる地域からの検体を受け入れる体制が整えられました。そして2017年に今回見学させて頂いたDusseldorfに2施設目CryoBankが設立し、その規模を拡大していきました。
デュッセルドルフ大学病院は前述のCryoBankを併設しており、ドイツのあらゆる地域から検体を受け入れており、技術の提供を行っています。昨年度で148件、今年度の11月時点で200件ほど卵巣凍結を実施しているということでした。また、FertiPRPTEKTという組織に所属し、相互にネットワークを繋げることで日々技術の更新を行っています。
FertiPROTEKTは2006年に設立され、ドイツ・スイス・オーストリアの3カ国で連携され、卵巣凍結などといった妊孕性を温存する技術の提供を行っています。卵巣凍結は2017年度で341件、2018年12月までで合計4049件実施しているということでした。またFertiPROTEKTのデータによると、卵巣凍結の平均年齢は29.9歳、保存期間は4.4年、移植年齢は34.3歳ということでした。
卵巣凍結はまだ発展途上の技術ではあります。しかし、妊孕性の温存という点においては非常に価値のある技術であり、今後大きく広まっていくことが期待されます。日本においてもこの技術を導入し、実施している施設もいくつか存在します。当院ではがん患者の方々の妊孕性温存目的のため、すでに卵子や精子、胚凍結を行っておりますが、今後体制が整えば卵巣凍結を導入していく予定です。
最後になりましたが、今回は卵巣凍結技術の見学という貴重な経験をさせて下さった蔵本院長に感謝するとともに、その期間業務の調整をして下さったスタッフの方々に感謝申し上げます。また今回見学するにあたり、ご指導して下さったMontag先生およびJana先生には深く感謝申し上げます。ありがとうございました。
第22回日本IVF学会・学術集会を開催しました2019年10月30日
10月5日(土)・6日(日)、第22回日本IVF学会学術集会が福岡で開催されました。
本会は、体外受精に関する臨床的・基礎的研究の推進を通して生殖補助医療の発展に寄与することを目的とし、毎年開催されている学術集会です。第22回目となる今回は、当院院長 蔵本武志が学会学術集会長となり、生殖医療に携わる多くの方々にご参加いただきました。
今学術集会では、「上質なARTの探求」をテーマに全国の著名な先生方より発表をしていただきました。
京都大学教授 斎藤通紀氏、九州大学教授 林克彦氏からは生殖再生医療の進歩と今後の発展について、徳島大学教授 苛原稔氏、内閣官房参与 吉村泰典氏からは我が国の生殖医療の課題と今後の方向性についてご講演いただきました。また、Valencia大学産婦人科教授のCarlos Simon氏からは反復着床不全に子宮内膜環境を整える必要性について、最適な胚盤胞移植時期を調べる子宮内膜受容能検査(ERA)と子宮内膜細菌叢及び慢性子宮内膜炎の痛源菌を調べる検査(EMMA/ALICE)について、検査異常時の治療法の有効性についてご講演いただきました。ドイツ ilabcomm GmbH CEOのMarkus Montag氏からはタイムラプスの技術を用いた最新培養器とAIによる胚の評価について、オーストラリア生殖医学会理事長のMicael Chapman教授からはpolscopeを用いたICSIについてご講演いただきました。
その他にも、高度生殖医療を受ける現代女性が抱える問題点についてのシンポジウムや各企業からの展示ブース、福岡市長 高島宗一郎氏からのご挨拶など、非常に有意義な内容となりました。
当院では、今学術集会の主催者としてスタッフ全員で事前の準備から当日の運営にあたりました。診療と並行しての作業で各自大変なこともあったと思いますが、大きなトラブルもなく無事に終了することができました。このような規模の大きい学会の運営に携われて得た経験を今後の業務の中で活かしていきたいと思います。
「IVF学会に参加して」
2019年10月5日、6日の日程で第22回 日本IVF学会学術集会が開催されました。
今年は福岡での開催で当院院長の蔵本武志が学術集会長を務めました。
著名な先生方による講演やシンポジウムに加え、口頭演題42題と大変、活発な会となりました。当院からは、研究部門の村上主任がシンポジウム「ARTを行うための理想的な培養液とは」のテーマで「ARTと培養液;培養は安全ではない」と題して講演を行いました。
口頭演題は医局部門から加藤医師、培養部門からは私が発表を行いました。
また、私の演題「多核胚とDirect Cleavage胚の臨床成績」は、優秀演題に選んでいただき、学術奨励賞として表彰を受けました。
当院では13年前から多核胚の研究を始め、これまでに多核胚の発生能と妊孕性や染色体の異数性など様々な報告を行ってきました。また、Direct Cleavageに関してもタイムラプスが普及し始めた近年、多くの知見が報告されるようになりました。しかし、これまで両者の関連性について研究した文献はありませんでした。
そして、昨年当院が初めて多核とDirect Cleavageの関連について報告し、さらに今回の発表では、多核のみの胚、Direct Cleavageのみの胚、多核とDirect Cleavageの両方が認められた胚、それぞれの妊娠率、流産率を分析した結果を報告しました。
多核やDirect Cleavageについてはまだ明らかになっていないことも多く、今後の検討課題も数多くありますが、これからも患者様の治療に役立つ知見を報告していきたいと思います。
オーストリア(ウィーン)で開催されたヨーロッパ生殖医学会[ESHRE]に参加して2019年7月23日
当院では、国際的な視点から新しい知識・技術を獲得し治療に還元するため、毎年ASRM(アメリカ生殖医学会)やESHRE(ヨーロッパ生殖医学会)といった国際学会に参加しております。
今回は、オーストリアのウィーンにて、6/23から6/26まで開催されましたヨーロッパ生殖医学会に参加させていただきました。
当院からは院長および培養士1名の2名が参加しました。世界124カ国から9979名が参加し、口頭発表が313題、ポスター発表が803題ありました。
学会1、2日目には日本語セミナーに参加し、口頭発表の内容を解説していただきましたので、英語の聞き取りが出来ない私でも内容を理解することが出来ました。
発表の傾向としましては、着床前診断とタイムラプス解析による胚の評価に関わるものが多いようでした。世界的に胚のタイムラプス解析はスタンダードになっているようでした。着床前診断では、一部デメリットとして胚に対して多少なりとも侵襲的になってしまうということが挙げられます。このことに対して、非侵襲的に着床前診断が出来ないか検討している発表も多数見受けられました。タイムラプス解析で正倍数性の胚を検出可能であるとか、胚を培養していた培養液で診断が出来るなど早急に臨床的に応用できるまで研究が進んでくれることを願いたいです。
ところで、これだけ演題がありますと多少なりとも似通ったものが多くなってきますが、中には全く正反対の結論を発表している演題もあり、生殖医療はまだまだ未開拓で未知な部分が多い分野なのだなと実感しました。
国際学会に参加する意義として当院より発表したり、発表を聞き新たな視点を知ることもそのひとつですが、参加している生殖補助従事者の方々と交流し、意見を交換し合うことも重要です。今回も当院で使用している製品の成績についてドイツのマルクス・モンタック博士とミーティングを行ったり、igenomix社のカルロス・シモン教授の意見を聴いたりととても有意義な時間を過ごすことが出来ました。
さて、今回のESHRE参加の合間にはオーストリアのウィーンとハンガリーのブタペスト観光にも参加させていただきましたので少し紹介させていただきたいと思います。
ウィーンといいますと650年も続いたハプスブルグ家の繁栄と衰退が有名で、18世紀全盛期の女帝マリア・テレジアやその末娘マリーアントワネット、美女として知られたエリザベートなど宮殿や王宮の華やか文化が現在も色濃く残っていました。
次にブタペストです。初代国王イシュトバーンが国家を建設してから1000年の歴史ある街並みで中心をドナウ川が流れています。絵のように美しい光景はドナウの真珠と呼ばれているそうです。また高さのある建設物は認められておらず,見晴らしの良い所に行けば,美しいブタペストの街並みを一望することが出来ました。
他にも世界一美しいと呼ばれる国会議事堂やドナウ川でのディナークルーズに参加させていただいたりと素晴らしい経験をさせていただきました。
今回、国際学会に参加という貴重な体験をさせてくださった院長に感謝するとともに、参加するにあたり業務の調整に協力して下さったスタッフの方々には深く感謝申し上げます。ありがとうございました。
タイムラプスインキュベーター「Embryo Scope Plus」のご紹介2019年1月29日
胚(受精卵)の培養はインキュベーター(培養器)と呼ばれる機械を用いて行います。インキュベーターの内部は、胚にとって適切な環境である37℃の温度および低酸素状態に保たれています。
適切な環境で培養した胚をより良い状態で凍結・移植するためには、発生(胚の成長)の状況を顕微鏡下で観察し、評価する事が必要です。胚の評価をするに当たっての情報は多い方が良いですが、観察頻度を増やすとインキュベーターから取り出して胚を外気のストレスに曝す回数も増えるため、そのバランスに頭を悩ませていました。
このようなジレンマを解消する方法として、当院では2017年11月にタイムラプスインキュベーター「Embryo Scope Plus」を導入しました。タイムラプスインキュベーターは、胚を培養する機能に加えて、顕微鏡とカメラおよび解析ソフトが搭載された装置の事です。タイムラプスシステムを用いる事で、インキュベーターから取り出さずに胚を観察できるようになりました。また、胚の発生を動画として解析出来るため、従来法では知り得ない細かな変化も観測できるようになり胚評価に生かす事が出来ています。
Embryo Scope Plusは、タイムラプスインキュベーターの中でも特に高い性能を持った製品で専用の培養ディッシュを使用します。現在、受精卵(前核期胚)あたりの胚盤胞到達率は約55%で安定しており、導入前後の臨床的妊娠率も約5%改善するなど、治療成績向上に繋がっています。
バルセロナ(スペイン)で開催された生殖医学会に参加して2018年8月4日
スペインのバルセロナにて、7月1日から7月4日までヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)が開催されました。
当院からは院長および培養士1名の2名が参加しました。世界130カ国から11600名が参加し、日本からは120名が参加しておりました。
ESHRE開催1週間ほど前にスペインのバレンシアに入り、着床に関連している遺伝子検査を世界的に実施している「Igenomix」の本社およびスペインのみならず世界のさまざまな地域で生殖補助医療を行っているクリニックである「IVI」の見学をさせていただきました。
IgenomixはERA(子宮内膜受容能検査)、子宮内フローラ(生殖器内に存在する様々な菌のバランスを調べる検査)、PGD(着床前診断)、PGS(着床前遺伝子スクリーニング)、NIPT(新型出生前診断)などといった遺伝子検査を外部から受託し、その検査を行っている会社です。Carlos Simon教授とお会いし、意見交換を行いました。Simon先生は、反復着床不全では至適な子宮内膜移植時期にズレがあること、着床に関連している遺伝子365個を見つけ、最も着床しやすい時期を示すWOI(Window of Implantaion)を調べるERA(子宮内膜受容能検査)を確立された先生です。ERAをおこなう日に併せて子宮内フローラ、慢性子宮内膜炎関連菌の同定検査ができ(この3検査をあわせてEndomeTRIOと言うそうです)、その結果をもって有効な抗生剤等の治療を行い、適切な胚移植日を決定します。
Igenomixの本社では年間4000件ほどの解析を行っているとのことでしたが、解析を行うチーム、分析および情報提供を行うチーム、研究を行うチームなどにきちんとわかれており、スムーズに情報を提供できるシステムが作られているとのことでした。
IVIは1990年に設立された生殖補助医療クリニックです。スペインのみならずアメリカ、イタリア、メキシコ、インドなど世界のさまざまな地域で生殖補助医療技術を提供しています。それらの地域のクリニック全体で年間13000周期の採卵、12000周期のETを行っており、患者様の希望によっては卵子提供やPGDやNIPTなどの遺伝子検査も行っているとのことでした。見学をさせていただいたバレンシアのIVIはIVI発祥の施設で、年間6000周期の採卵を行っていました。約250名のスタッフが働いており、9:00~14:00、14:00~21:00の2交代制でスタッフも非常に働きやすい環境となっていました。また、患者様の待ち時間を減らす対策にも取り組んでいるそうです。非常に刺激のある経験をすることができました。
見学後は学会参加のためバルセロナに移動しました。学会期間中は日本語セミナーもあったため、英語が苦手な私でも今回の学会の演題の内容を深く理解することができました。学会の内容は昨年に引き続きPGDやPGS、タイムラプス(受精から胚盤胞までの発育を等間隔で撮影し観察するもの)を用いた胚の解析などが多く見られました。
国際学会に参加することで、世界各国で行われている医療技術に触れることができ、医療従事者の1人として刺激を受けるとともに、また1歩成長する事が出来たような気がします。
学会の合間には観光もさせていただきました。サグラダ・ファミリアやカサ・ミラ、カサ・バトリョなどの世界遺産などを見学させていただきました。日本では見られないような街並みが非常に美しく、思わず写真を何枚も撮ってしまいました。スペイン料理であるパエリアや地中海料理などもいただきました。日本人の口に合う食事で非常に美味しくいただくことが出来ました。また今回はドバイを経由しての渡航だったのでドバイの観光も少しさせていただきました。この時期のドバイは非常に暑く、外に出るとサウナに入っているような感覚になり、実際現地の人たちもこの時期の昼間には仕事をセーブしたりするとのことでした。世界一高いビルなども観光させていただいたのですが、街並み自体が近未来的で非常に感動しました。
今回、国際学会に参加という貴重な体験をさせていただいたうえに、スペインおよびドバイ観光も十二分に楽しませていいただき、日本ではなかなか味わうことのできない現地の料理も美味しくいただくことができました。このような経験をさせて下さった院長に感謝するとともに、参加するにあたり業務の調整に協力して下さったスタッフの方々には深く感謝申し上げます。ありがとうございました。
培養室 長尾 洋三
スイス・ジュネーブ開催のヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)に参加しました2017年8月1日
2017年7月2日〜5日にジュネーブで開かれたESHREに院長と私が参加しました。
毎年、世界各国より1万人近くが参加し、今年の発表は口演が298題、ポスターが807題でした。
当院からは口演:Influence of commercial embryo culture media on preimplantation development and pregnancy outcome after IVF: a single-center RCTを発表しました。
胚の培養は生まれる児の健康にとっても大事なステップです。当院は、培養液が胚の発育や妊娠に与える影響を体系的に調べており、今回はその経過です。発表時や期間中に得た質問やコメントを活かし、今後も「学会と現場をリンク」させながら、良い培養系を得る検討を続けたいです。
行きに乗り継ぎのパリの空港で不審者騒動があり、フライトキャンセルが相次ぎ、結局空港内のベンチで一晩を過ごしました。翌日の便にも乗れず、500キロ以上離れたジュネーブまで7時間のバス移動と、ただ座っていただけですが、もはや達観状態です。空港周辺は車も多く、雑多な景色を眺めてうたた寝するしかありません。じきに窓外には麦畑や森が広がりいかにも牧歌的です。
ふと目を覚ますと、外は草原でシャロレー種というフランス原産の白い肉牛が草を食んでいます。昔つくったクローンウシと同種の牛だったので、懐かしくも方々に散らばる光景が少し妙に感じました。
食事については、パンとチーズとハムの種類が豊富でどこで食べても旨くて印象的でした。日本でいうご飯に納豆、甘塩鮭といったところでしょうが、駅のスーパーで買った山積みのパック入り生ハムでさえ旨くて、率直に食文化の深さを感じました。
ESHRE自体、当院が行う胚の培養や凍結、移植がメインと言っていい学会で、関連する演題の発表も一番大きい会場です。言語や文化は異なり、西洋主義でもないですが、目的を共有できる国際学会があり、そこに行けることに感謝したいです。あと、大小のクリニック、企業、大学の方々とも様々な形で接触でき、気持ちに少し余裕ができました。とはいえ、どこか外部と共同研究をする場合は、あまり馴れ馴れしいと彼方も嫌でしょうし、それで意見しづらくなるのも問題です。個人的には、適当な距離感で結果を出しつつ、発表だけでなく論文も書いて相手にしてもらうのがいいかと、今回の学会を通じ改めて感じました。今後に向け収穫を得た1週間でした。
研究部門主任 村上 正夫
ヘルシンキ(フィンランド)で開かれた生殖医学会に参加して2016年7月10日
フィンランドのヘルシンキにて、2016年7月3日から7月6日までヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)が開催されました。
院長、研究部1名、培養士1名の計3名で参加しました。世界117ヵ国から6741人が参加しており、口頭発表は295題、ポスター発表800題あり、当院は研究部から「Simple effective vitrification of a small number of human spermatozoa using Rapid-i carriers: a follow up study」という演目で、ポスター発表を1題行ないました。液体窒素に暴露しない安全なデバイスを用いた希少精子凍結に関する報告です。
ジャカルタ(インドネシア)で開催されたASPIREに参加して2016年4月1日
2016年4月8~10日にThe 6th Congress of the Asia Pacific Initiative on Reproduction (ASPIRE)がインドネシアのジャカルタで開催され、院長、村上(研究)、水本(培養)の3人が参加しました。
当院からは、村上が「Albumin source for blastocyst culture influences embryo morphokinetics and viability after vitrification : from animal model to clinical trial.」という演題の発表を行いました。
培養液には血清由来の成分が含まれているため、感染等のリスクはゼロではありません。そこで、当院ではより安全なARTシステムを目指し、血清成分を含まない培養液について研究を行っています。いずれの検討も、まずはウシを用いた基礎実験を行い、その結果を踏まえて臨床に応用する、という形をとっています。今回の発表は、血清由来成分を含む培養液を用いた場合と無血清培地を用いた場合の、ウシ・ヒト胚それぞれの発生速度と形態変化を比較したもので、いずれも良好な結果を得ることが出来ています。
南方医科大学南方医院ラボ指導を終えて2008年7月1日
2008年7月25日から3日間、広州の南方医院の新しくなった生殖医療センターでのラボ指導に行ってまいりました。
ラボスタッフはすべてドクターで構成されており、4人で採卵1,000件をこなしているとのことでした。凍結胚もバーコードで管理されており、4人でもダブルチェックが機能する体制が整っていました。
3日間と非常に短い時間での指導は極めて困難ですが、今回は採卵~ICSI~胚移植、それに付随する培養液とその管理などに絞って見学し、ディスカッションしてきました。
第2回中日ART Work Shopに参加して2007年11月1日
2007年11月3日から11月4日まで中国広州にある南方医科大学で名誉主席の邢福祺教授、大会主席の全松教授が中心となり開催された第2回中日ART Work shopに参加しました。
南方医科大学には約13,000名の学生が在籍しており、学生をはじめ、そこに勤務しておられる医師やその家族約30,000人の方が南方医科大学の敷地内に住んでおり、敷地内にホテルやレストランなど様々な施設が混在しているため、あたかも1つの街を作っているように感じました。
スウェーデン カロリンスカ大学病院を訪問して2005年6月1日
2005年6月16日と17日の二日間スウェーデン・ストックホルムにあるカロリンスカ大学病院に院長の蔵本、培養室より江頭、西垣の3名で訪問させて頂きました。
上空より見たスウェーデンは水と森林の国といわれるだけあり、湖の色、森の緑と調和のとれた美しい国でした。また、ストックホルム市内は、レンガ造りの建物が多く北欧のベニスと称されるほど大変美しい町並みでした。ただ、高福祉・高負担の福祉国家の国といわれるだけあって物価の高さには多少驚きもしました。
フィンランドでのデモンストレーションを終えて2005年2月1日
2004年9月、フィンランド・ヘルシンキにある‘ファテリノバクリニック’のラボ主任、イルッカ氏から胚盤胞のVitrification(超急速凍結法)をフィンランドで指導して欲しいと依頼されました。
彼との出会いは2003年のスペインのマドリッドで開催された欧州生殖会議(ESHRE)で私が当院の『胚盤胞のVitrification(MVC)法』をポスター発表したところまでさかのぼります。