担当医師

男性不妊症は不妊原因の約半数と言われており、『造精機能障害』、『性機能障害』、『精路通過障害』に分類されます。顕微授精を用いることで、精子が1個でも見つかれば受精や妊娠が可能な時代になりました。
当院の男性不妊外来では、山口大学泌尿器科教授の白石晃司先生に来ていただいております。白石先生は生殖医療専門医で無精子症の治療をはじめ、以下の治療を行っております。
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※2017年 厚生労働省
精子は精巣の中で作られ、精巣上体で完全な精子となります。精巣での精子形成や精巣上体での成熟過程に異常があると、精子の濃度が少なくなる『乏精子症』、精子の運動率が悪くなる『精子無力症』、精子が全くいない『無精子症』、精子の奇形が多くなる(正常形態率が下がる)『奇形精子症』が生じ、受精能力が低下します。
精液検査 | 基準値 |
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精液量 | 1.4ml |
精子濃度 | 1600万/ml |
運動率 | 42% |
前進運動率 | 30% |
正常形態率 | 4% |
避妊中止後12ヶ月以内に自然妊娠した男性の精液データをもとに作成されています。
この値は、自然妊娠するために必要最低限の精液所見のデータであり、この値を下回る場合、男性不妊に対する専門的な治療を行うこと、人工授精、ARTにステップアップすることを勧めます。
造精機能障害は原因不明であることが多く、ビタミン剤や漢方薬、抗酸化作用のあるサプリメントを用いて治療を行います。
2番目に多い原因が、精巣の上にある血管に瘤ができる精索静脈瘤で、外科的手術によって精液所見が回復する可能性があります。
また、造精機能を司るホルモンの分泌低下による低ゴナドトロピン性性腺機能低下症、おたふく風邪などによる精巣炎、クラインフェルター症候群(47,XXY)などの染色体異常、Y染色体の微小欠失によって判明した遺伝子異常、抗がん剤などの治療後なども造精機能の低下による『無精子症』と関連しています。
性機能障害には、勃起ができない『勃起障害(ED)』と射精ができない『射精障害』があります。EDの原因には動脈硬化や糖尿病がありますが、最も多いのは心因性のEDといわれています。不妊治療でタイミングを行う場合、プレッシャーからEDとなることがあります。また、勃起・性交渉はできても、プレッシャーから腟内射精ができない射精障害も起こります。
射精障害には、射精はできているものの精液が膀胱内に逆流してしまう逆行性射精があります。原因は神経障害や糖尿病、心因性、薬剤性といわれています。
精子は精巣内で作られた後、精巣上体、精管を経て尿道から射精されます。精子がまったくない無精子症の中には、精巣内で精子が作られているにも関わらず、精液中に精子が出て来れない閉塞性無精子症があります。
先天性の両側精管欠損や精巣上体炎後の炎症性閉塞、鼠径ヘルニア手術等があります。閉塞した精路を再建したり、精巣内の精子を回収して顕微授精することにより、挙児の可能性が出てきます。
精巣や精索の静脈が逆流して瘤が形成されたものを、精索静脈瘤といいます。精巣への血流が悪くなり、精子が造れなかったり、質が悪くなります。
一般男性の約15%、男性不妊患者の40%以上に認められる比較的よく見られる疾患です。
治療としては手術(精索静脈瘤手術)があり、手術によって精液所見が改善される割合は約50~70%、自然妊娠率は約30%程度と報告されています。
また、手術により精子のDNA損傷が軽減されるため、体外受精などの妊娠率の向上にもつながることが報告されています。
視診、触診、陰嚢超音波検査で精索静脈瘤の有無、gradeを判断します。
grade2(立位で容易に触診可能)以上の精索静脈瘤がある場合、手術を推奨しています。
grade1(立位で腹圧負荷で触診可能)では手術をしても精液所見はほとんど改善しません。
左側に好発(約80%)するため、正確に診断して、病側の手術をすることが重要です。
逆流した血液が精巣へ流れないように、拡張した異常な精巣静脈を結紮・切断します。
現在当院では手術を行っていないため、近医もしくは山口大学へ御紹介させていただいております。
男性不妊症の中でも重症なものが無精子症です。2回の精液検査を行っても精子が見つからない場合、無精子症の診断となります。無精子症は閉塞性と非閉塞性に分類されます。精子の確保をするために手術が必要となることがあります。
閉塞性無精子症 | 非閉塞性無精子症 |
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精管・精巣上体の一部または複数箇所が閉塞 | 精巣で精子をつくる機能が低下 |
ホルモン(LH、FSH)は正常で、精子は精巣内でつくられている | ホルモン(LH、FSH)が高値 |
精子の通り道である精管・精巣上体の一部または複数の個所が閉塞し、精巣の中でできた精子が射出されない状態です。LHとFSHのホルモン値は正常で、精巣の容量も正常です。
通常、精巣内で精子は作られています。閉塞性無精子症の場合、精子を凍結して顕微授精をする必要があります。生殖補助医療(ART)を受けている患者様が対象となります。
精巣で精子をつくる機能が低下しているため、精子が作られにくい状態です。
LHとFSHのホルモンが高値で精巣の容積が小さいことが特徴です。
精液検査を2回行っても精子が全くいない場合、無精子症と診断します。ホルモン検査(LH,FSH,プロラクチン,テストステロンの採血)やエコー検査、触診などの検査を行い、閉塞性無精子症か非閉塞性無精子症かを診断します。
非閉塞性無精子症と診断された場合、精子形成の可能性があるかを血液検査で予測することができます。精子形成の可能性がある場合、精巣内精子採取術(TESE)の適応があります。手術適応があるか判断するために、血液検査でY染色体微小欠失(AZF)検査を行います。AZFaまたはAZFbの完全欠失の場合は、精子を採取することができないことが予測されます。
手術により精巣から直接精子の採取を行います。手術で採取された精子は数本に分けて凍結保存し、生殖補助医療で顕微授精を行います。
手術の方法は、精巣内精子採取術(TESE)と顕微鏡下精巣内精子採取(Micro-TESE)があります。当院ではTESEのみを施行しております。
Y染色体微小欠失(AZF)検査:約12,000円
精巣内精子採取術(TESE):約41,000円
陰嚢への局所麻酔を行います。左右どちらかの陰嚢に1cmの横切開を加え(左右の精巣の左右差がある場合は原則大きいほうの精巣)精巣組織を採取します。採取した精巣組織から、培養士が清潔の状態で精子を探します。傷は抜糸不要の糸で縫う場合と抜糸が必要な糸で縫う場合とがあります。手術時間は約30分程度です。
精子回収率は、閉塞性無精子症の場合90%、非閉塞性無精子症の場合30~40%です。精子が回収でき、その精子を用いて顕微授精を行い受精・胚移植をした場合の妊娠率は以下の通りです。
※胚移植あたり 2012年〜2022年 合計249件
酸化ストレスとは、生体内で発生する活性酸素(Reactive Oxygen Species:ROS)による酸化反応が抗酸化作用を上回った状態のことです。 加齢、生活習慣の悪化、高熱などによる活性酸素(ROS)が原因で、細胞のDNAが損傷し、老化につながると考えられています。 通常の精液所見で異常がない方でも、DNAに損傷がある精子の割合(DFI)や、未熟な精子の割合(HDS)が高いほど、受精率と妊娠率が低く、流産率が高いことが報告されています。
WHOのラボマニュアル(2021年)では、精子の質を調べるための検査として、『精子DNA断片化検査(DFI)』、『精液中酸化ストレス測定(ORP)』などの評価項目が追加されました。
DNAに損傷がある精子の割合(DFI)と、未熟な精子の割合(HDS)を調べる検査です。
原因不明の流産を繰り返す方、精液検査は正常であるが、受精率や妊娠率が悪い方を対象とします。
精子を正常な精子、DNA損傷のある精子、未熟精子にそれぞれ染色して、フローサイトメトリーという方法で測定したものが、下の図となります。
正常精子は白色、DNA損傷のある精子は赤色、未熟精子は緑色の領域に表示されます。
正常値は、DFIが30%未満、HDSが15%未満です。
※参考:https://www.kitazato-biolab.com/sperm-chromatin-details
DFIが高い場合、ZyMot(膜構造を用いた生理学的精子選択術)を行い、DNA損傷の少ない精子を用いた顕微授精を検討します。
HDSが高い場合、PICSI(ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術)を行い、より成熟した精子を用いた顕微授精を検討します。
精子DNA断片化指数検査(DFI) 16,000円
精子は酸化ストレスに弱いため、長期間、精子を貯めないよう定期的に射精しましょう(禁欲期間は2~3日)。
喫煙されている方は必ず禁煙し、過度な飲酒は控え、適度な運動をしましょう。
高温での入浴、サウナ、きつめの下着、長時間の同じ体勢も控えましょう。
活性酸素を抑えるために抗酸化作用をもつサプリメント(アスタリール、ビタミンC・E、亜鉛)や、酸化ストレスを中和するサプリメント(コエンザイムQ10やオメガ3脂肪酸)を勧めることがあります。
治療について