卵子凍結とは
卵子が老化し妊娠する力が衰えるまえに卵子を採取し凍結保存する技術のことです。少しでも若い年齢の時の卵子を凍結しておくことで、凍結した年齢での卵子の質が維持されます。しかし、卵子を採るまでに複数回の通院が必要になります。また、凍結した卵子を用いて将来妊娠することが可能かどうかは凍結した時点では判断できません。さらに高齢で妊娠した場合、妊娠中の母体合併症のリスクが増加する可能性もあります。
卵子凍結にご理解いただいた上で検討を進めてください。
卵子凍結には、「がん等治療前の卵子凍結(医学的適応)」と「将来に備えるノンメディカルな卵子凍結(社会的適応)」があります。
がん等治療前の卵子や精子凍結
悪性腫瘍等に罹患し、外科的療法、化学療法、放射線療法などの治療を受けた結果、妊娠・出産を経験する前に卵巣機能が低下し、妊孕性(にんようせい、妊娠のし易さ)が失われる場合があります。このリスクに対して、妊孕性を温存する方法の一つが、卵子凍結保存です。
将来のためのノンメディカルな卵子凍結(社会的適応)
女性の社会進出による妊娠年齢の高齢化が問題となっています。女性においては加齢により卵子の数が減り、卵子の染色体異常が増加することがわかっています。この社会問題を解決する一つの手段として、年齢が若い時に卵子を保存することを目的としたものがノンメディカルな卵子凍結(社会的適応)です。
※ノンメディカルな卵子凍結をお考えの皆様には日本産婦人科学会が作成した動画もご視聴いただいております。初診の前に以下のリンクから動画を見て、ご受診ください。
- 関連リンク
日本産婦人科学会HP
※当院の卵子凍結についての治療動画もご覧ください
女性の年齢と卵子の老化

男性の精子生産数
1日およそ1億2千3百万個。男性は女性に比べ、年齢に伴う精子数の減少は少ないが、35歳がピークで、50歳台から精子数も減少していく。
卵子凍結までの流れ(自費診療)
卵巣刺激により複数の卵胞を発育させて、受精させる前の成熟卵子(未受精卵子)を凍結保存します。
※卵巣刺激;排卵誘発剤(注射や飲み薬など)を使い複数の卵子を育てていきます。
※1回の治療で凍結できる卵子数は、個人差があります。1回あたりの卵子凍結数が少ない場合は、医師と相談のうえ、数回、採卵を行なう方もいます。
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初診予約
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治療計画
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卵巣刺激(排卵誘発剤の投与)
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採卵
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卵子凍結
治療スケジュール

※通院回数は個人差があります。
凍結卵子を使用する場合
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凍結した卵子を融解
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融解日に顕微授精(パートナーの精子が必要)
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受精、細胞分裂を確認し胚移植
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胚移植日から10日目後くらいに妊娠判定検査(血液検査)


正常受精確認

4細胞

6~8細胞

桑実期胚

胚盤胞
治療成績
卵子の凍結融解後の生存率は成熟卵子の場合約99%です。 1個の正倍数性胚(正常な染色体の胚)を得るために必要な卵子数は28-34歳で3〜6個、35-40歳で8〜16個と報告されています(下図:Esteves SC. et al: Front Endocrinol 2019)。正倍数性胚であっても、子宮内に着床する確率は約65%で、流産率も約10%です(Iwasa T. et al: Reprod Med Biol 2023)。様々な要因を考慮すると、生児を1人得るために必要な卵子数は28-34歳で約3〜7個、35-39歳で9〜18個、40歳で約18個と推定されます。
採取した全ての卵子が凍結保管できるわけではなく、また、採取した卵子が利用できない状態になってしまう可能性もあります。ご自分の年齢や体の状況を考え、何個くらいの卵子を凍結するのが良いのか、医師と相談しましょう。

※Esteves SC. et al.:Front Endocrinol(Lausanne). 2019:10:99.より改変
卵子凍結の注意点
- ノンメディカルの卵子を凍結の場合、年齢は原則40歳以下で、45歳までに使用していただく必要があります(45歳になった時点で卵子の凍結保存延長はできません)。医学的卵子凍結の場合は、50歳程度が目安です。
- 必ず受精、妊娠することを保証しているわけではありません。
- 卵子凍結、胚移植の費用は自費診療となります(詳細は料金表をご参照ください)。
- 採卵に伴う合併症(アレルギー、卵巣過剰刺激症候群、感染、膀胱・腸・血管損傷など)が起こる可能性があります。
- 外部の保存施設を利用される方は、はじめに申し出てください。
- 当院では、グレースバンク(卵子凍結保管サービス)とも提携しております。詳しくは、グレースバンクのホームページをご覧ください。
卵子・精子凍結費用
卵子凍結費用
卵子凍結および胚移植は、すべて自費診療になります。当院では未熟卵に対して、IVM(未熟卵培養)を行っており、その料金も含みます。
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初診
項目 料金 初診料、カウンセリング料、術前血液検査、超音波検査、AMH、クラミジア検査 約30,000円 -
来院2回目以降〜採卵決定まで
項目 料金 再診料、ホルモン採血、超音波検査 約15,000円 ※個人差もありますが、採卵まで2〜3回の受診が必要となります。
※採卵1周期にかかる薬剤料は、全部で約5〜15万円です。
※ご自宅で自己注射をされる場合、治療開始日に約8万円必要になります。
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採卵日
項目 料金 採卵料、培養料、IVM(未熟卵培養)、卵子凍結(1年間)料金 医学的な
卵子凍結220,000円 社会的な
卵子凍結297,000円 ※採卵時に卵子凍結、IVM(未熟卵培養)を行わなかった場合でも返金はありません。
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以後、1年毎
項目 料金 卵子凍結保存延長料金(採卵個数に関係なく) 医学的な
卵子凍結55,000円
/年社会的な
卵子凍結66,000円
/年
精子凍結費用
- 精子凍結保存料(自費)
バイアル1本+Rapid-i3本まで(初年度)22,000円
- 凍結精子保存延長料金(自費)
バイアル1本22,000円、Rapid-i1本5,000円
※バイアル:培養液を用いて処理した精液と凍結保護液を混合してバイアル(精子凍結用のチューブ)を用いて行います。顕微授精を行う際は、凍結精子を加温して融解し、遠心分離によって回収します。
※Rapid-i:極度に精子数が少ない場合は、「少数精子凍結法」によって凍結を行います。少数精子凍結法は、マニピュレーターを使用して精子を数個ずつ微細な凍結デバイス上に載せて凍結する方法です。この方法を使用すると精子の探索時間が大幅に短縮されるため、顕微授精を行う際の卵子の老化を防ぐことが出来ます。
がん等治療前の卵子や精子の凍結保存をご希望の方へ
がん等治療前の卵子凍結や精子凍結をご希望の方は、まずは、当院へご連絡をお願いします。
必ず、紹介状の持参をお願いします。
卵子凍結の場合
がん等治療担当の主治医が、原疾患の治療に影響を及ぼさないと判断し、文書による適切な情報提供がなされている場合にのみ行われます。また未成年者の場合は保護者の同意が必要となります。ご結婚されている方の場合は、未受精卵子よりも、夫の精子と受精させた後に凍結保存する胚凍結を推奨しています。これは受精後の方が、妊娠・出産に至る確率や安全性が高いためです。
回復後の当院での治療
がん等の原疾患の治療が終了または一段落し、文書による妊娠の許可が得られたうえで、患者様本人の意思に基づき凍結未受精卵子融解の同意書が提出された場合に、この卵子を用いた生殖医療が可能となります。
精子凍結の場合
がん等の治療のため、抗がん剤治療や放射線療法を行った場合、精子や精巣機能に影響を及ぼす場合があります。当院では、がん治療を行う前に妊孕性の温存目的として精子の凍結保存が可能です。
凍結精子を用いて妊娠を希望される場合
融解した後の生存率は約40%です。また凍結融解の過程で受精に必要な精子の先体反応にも影響があるため、融解後の精子を用いた治療には顕微授精が必要となります。
顕微授精では1個の卵子に対し、必要な精子も1個であるため、融解後でも運動性が高く正常形態の、最も良い精子を選別して治療に用いており、その後の受精率や妊娠率は、新鮮射出精子を用いた顕微授精と変わりません。
治療について