福岡の着床前診断(着床前遺伝学的検査:PGT)

着床前診断とは

着床前遺伝学的検査(PGT:Preimplantation genetic testing)

着床前遺伝学的検査(以下、PGT)は、体外へ取り出した卵子を精子と受精させ、受精卵を子宮に着床する直前の段階の胚盤胞まで培養し、胚盤胞の細胞を一部取り出して、染色体数や遺伝情報を調べる検査です。当院は日本産科婦人科学会のPGT認定施設です。
当院で行うことができるPGTは以下の3種類です。
いずれも自費診療となり、体外受精、胚移植にかかる費用も含め全て自費診療です(保険診療との併用はできません)。

1PGT-A : Preimplantation genetic testing for aneuploidy

  • 対象
    ART治療をしている方で
    ①胚移植を2回以上行っても妊娠していない方
    ②子宮内妊娠が確認された流産を2回以上繰り返している方
    ③女性の年齢が35歳以上の方

2PGT-SR : Preimplantation genetic testing for structural rearrangement

  • 対象
    ご夫婦の一方、あるいは双方に染色体に構造異常(均衡型相互転座等の変化)を認める場合

3PGT-M : Preimplantation genetic testing for monogenic/single gene defects

  • 対象
    医学的に重篤な単一遺伝性疾患(例:デュシェンヌ型筋ジストロフィー など)の遺伝子変異をご夫婦の一方あるいは双方が持っており、その遺伝子が遺伝することでお子さんがその病気を発症する可能性のある場合

着床前診断(PGT-A/SR)をお考えの方へ

PGT-A/SRをご希望の方は、診察時に医師にお申し出ください。PGT-SRをご希望の方は、染色体検査の結果をご持参ください。
また日本産科婦人科学会HPにあります説明動画を以下のURLよりご視聴ください。

治療の流れ

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    通常通り体外受精(または顕微授精)を行い、受精卵を胚盤胞まで培養します

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    状態のよい胚盤胞ができれば、胚盤胞の栄養外胚葉(将来胎盤になる細胞)から細胞を5〜10個取り出し検査に提出します。胚盤胞は冷凍保存します。胚盤胞の状態によっては、検査に提出できる細胞が採取できない場合もあります。

    胚盤胞
    胚盤胞
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    検査は外部の検査機関で行います。次世代シーケンサー(Next Generation Sequencer:NGS)という方法を用いて、胚の染色体の異数性を診断します。検査結果が出るまでには3〜4週間かかります。

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    検査の結果、異数性がないと診断された胚があれば、胚移植を行います。

PGT-A/SRの検査結果

PGT-A/SRの検査結果は以下の4つに分類されます。これらは、あくまで、移植をするかしないかを考えるにあたり参考にするための判定であり、実際に胚を移植するかしないかに関しては、遺伝カウンセリングで結果を説明した上で、最終的にはご夫婦でご判断いただくことになります。

判定 A

すべての常染色体が正倍数性である胚

判定 B

すべての常染色体が正倍数性であるとも異数性であるとも言えない胚(多くは常染色体の異数性あるいは構造異常を有する細胞と常染色体が正倍数性細胞とのモザイクである胚を指すが、アーチファクトと区別できない場合も含まれる)

判定 C

常染色体の異数性もしくは構造異常を有する胚

判定 D

解析結果の判定が不能な胚

性染色体について

PGT-A/SRは性別を知ることを目的とした検査ではありませんので、性別については、性染色体に変化がない限り医療機関にも公開されません。また、性染色体(X,Y染色体)のみに変化が見られる場合、「判定A」という評価になります。この場合の詳細な説明ついては遺伝カウンセリングで対応させていただきます。

メリットとデメリット

メリット

PGT-A/SRを受けることで、染色体異常をもつ可能性が低いと判断された胚を移植することができるため、以下のことが期待されます。

胚の形態評価以外に移植する胚の優先順位を考えるための情報が得られます。
流産率の低下、妊娠率、出産率の向上が期待されます。
妊娠・出産のできる可能性の低い胚移植を回避できることにより、妊娠・出産までの時間を短縮できる可能性があります。
染色体疾患のある赤ちゃんを妊娠・出産する可能性が減少すると考えられます。

デメリット

PGT-A/SRは完璧な検査ではなく、また不明確な部分もある方法です。そのため、以下のようなことが危惧されます。

自然妊娠や人工授精で妊娠が可能な方であっても、PGT-A/SRを受けるためには必ず体外受精を行う必要があります。そのため、体外受精を行うことによる身体的、精神的、経済的負担が生じます。

不妊治療に必要な費用に加えて、検査に必要な費用が別途かかります。またこの検査は保険適用外のため体外受精、胚移植も自費で行う必要があります。

PGT-A/SRをしない、あるいはできない状態の胚を移植しても妊娠・出産できる可能性はあります。検査をすることで、胚移植を見送ることになり、妊娠の機会の減少につながる可能性もあります。

細胞を採取することで胚へダメージを与える可能性があり、これによる影響(着床しない/流産するなど)を否定できません。
この検査では、すべての染色体の本数が多くなっている場合(倍数性異常)や染色体に過不足のない形の変化(均衡型転座など)、微細な染色体の形の変化などについては分かりません。

判定A、Bを移植しても、妊娠しない、流産する、赤ちゃんに染色体疾患やその他の病気がある可能性は否定できません。
染色体異常以外が原因となる赤ちゃんの病気については分かりません。

PGT-A/SRの検査結果の例

次世代シーケンシング(NGS)での胚の染色体検査解析結果の例

正常
正常
9トリソミー、18モノソミー
9トリソミー、18モノソミー
9番染色体にモザイク型の部分欠失がある可能性
9番染色体にモザイク型の部分欠失がある可能性

PGT-Mをお考えの方へ

医学的に重篤な単一遺伝性疾患(例:デュシェンヌ型筋ジストロフィー など)の遺伝子変異をご夫婦の一方あるいは双方が持っており、その遺伝子が遺伝することでお子さんがその病気を発症する可能性のある場合が対象となります。
そのため、下記の情報が必要となります。

1診断されている病気の名称

2原因となる遺伝子の変化(調べた遺伝子の検査結果)

遺伝子検査の結果は必須となりますので、事前に必ず準備をお願いいたします。上記を揃えていただいた上で、お電話で「PGT-M希望の遺伝カウンセリング」を申し込んで下さい。また、これまでに受けた検査の結果などがあればすべてご持参ください。

PGT-Mを行うためには、日本産科婦人科学会に申請をして学会の承認を得る必要があります。適応となる重篤な遺伝性疾患の重篤性の定義は、「原則、成人に達する以前に日常生活を強く損なう症状が出現したり、生存が危ぶまれる状況になり、現時点でそれを回避するために有効な治療法がないか、あるいは高度かつ侵襲度の高い治療を行う必要がある状態」とされています。PGT-Mを希望されても、適応とならない場合もありますのでご了承ください。