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ESHRE 2026 Londonに参加して(院長レポート)
生殖医療分野で世界最大規模の学会であるESHRE(European Society of Human Reproduction and Embryology:ヨーロッパ生殖医学会)2026に参加しました。今年は真夏のロンドンで開催され、世界134か国から12,829名が参加する大変盛大な学会となりました。
当院からは研究部の村上が研究発表を行いました。一方で、ヨーロッパでは記録的な熱波に見舞われ、多くの地域で大きな被害が報告されていました。また、2026年は受精現象の発見から150年という節目の年でもあり、生殖医療の歴史を振り返る機会にもなりました。
今回は、その中でも特に印象に残った発表をいくつかご紹介します。
1.着床前胚染色体検査(PGT-A)
ESHRE PGT Consortiumに登録している37施設、15,213生検サイクルのデータが報告されました。PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)を実施した症例では、**初回胚移植あたりの平均臨床妊娠率は52%**でした。
PGT-Aは現在も有用な治療法の一つですが、以前に報告されていたほど高い妊娠率ではなく、適応を十分に考慮しながら実施することの重要性が改めて示されました。
2.卵子・前核期胚・胚の発育停止(OZEMA)
卵子成熟停止、受精障害、胚発育停止など、原因不明の難治症例があります。近年、これらはOZEMA(Oocyte zygote embryo maturation arrest)という概念として捉えられるようになってきました。原因の一つとして、卵子成熟過程、受精過程、胚発育過程に関わる遺伝子の病的変異が見つかっています。現在、日本でも原因の解明や診断法の確立に向けた調査・研究が進められています。
3.膣内細菌叢(マイクロバイオーム)へのアプローチ
膣内の乳酸菌(ラクトバチルス)の割合が80%未満のPCOS患者さんに対し、ラクトバチルス製剤を膣内投与することで臨床妊娠率が改善したという報告がありました。
これは当院で得られている臨床成績とも一致しており、膣内環境の改善が妊娠率向上につながる可能性を改めて示す興味深い発表でした。
4. 帝王切開瘢痕症への対応
帝王切開後の瘢痕部にできたくぼみに子宮内の分泌液が貯留するIUFA(Intrauterine Fluid Accumulation)は、胚移植成績を低下させる原因の一つとされています。
対策として、
* IUFAの吸引
* ミソプロストール投与
* 両者の併用
などが行われますが、これらの治療でも改善しない症例があります。そのような場合には、帝王切開瘢痕部を修復する根治的な治療が必要となることがあります。
5.卵巣予備能が極めて低い患者さんへの新しい治療
卵巣予備能が著しく低下した患者さんに対して、
* PRP(多血小板血漿)の卵巣内注入療法
* エクソソームの卵巣内注入療法
により卵巣機能の改善が期待できる可能性について、中国やウクライナから報告がありました。
まだ十分なエビデンスが確立された治療ではありませんが、今後の研究成果が期待される分野です。
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今回のESHREでは、昨年発表された新しい卵巣刺激ガイドラインやAIを活用した胚評価ほど大きなインパクトのあるテーマはありませんでした。しかし、生殖医療は一つの治療法だけではなく、胚・子宮・卵巣・ホルモン・細菌叢など、さまざまな要素を総合的に考えて治療を組み立てることの重要性を改めて実感する学会でした。
当院では、医師だけでなく、培養士、研究スタッフを含めた各部門が積極的に国内外の学会へ参加・発表を行い、常に最新の知見を取り入れています。
これからも患者さんにより質の高い生殖医療を提供できるよう、チーム一丸となって知識と技術の向上に努めてまいります。
院長 蔵本 武志




