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スタッフブログ

パース(オーストラリア)で開催されたオーストラリア、ニュージーランド生殖医学会(FSANZ2024)に参加して(培養室レポート)

カテゴリー: ラボラトリーブログ, 学会参加レポート 2024年9月27日

培養室の水本です。
9月14~17日にパースで開催されたFertility society of Australia and New Zealand (オーストラリア・ニュージーランド生殖医学会;FSANZ)の学術集会に、院長、蔵本和孝医師、私の3人で出席しました。暑い日本を離れ、過ごしやすい春のオーストラリアでしっかりと研修させていただきました。

オーストラリアは畜産国のため、古くから繁殖増進を目的とした配偶子(卵子・精子)および受精卵(胚)に関する研究が盛んに行われています。不妊治療を目的とした体外受精技術にもイギリスと並んでいち早く取り組み始め、世界の最先端を走っている国の1つです。それに相応しくAIを駆使したARTの全自動化システムや器具開発についての報告がある一方で、新鮮胚移植と凍結融解胚移植の比較など、日本では10年以上前に行われていたような研究も多く見られ、各国の治療方針の違いが垣間見えました。日本の体外受精児は90%以上が凍結融解胚移植によって得られています(ARTデータブック最新版より)。今回、FSANZの年次報告にも出席しましたが、オーストラリア・ニュージーランドの出生児に占める凍結融解胚移植の割合は37.3%との事でした。

印象に残っている発表として、「“The compassionate Freeze”. A study on embryologist’s decision making in utilizing poor quality blastocysts for poor prognosis patients.」という演題を紹介したいと思います。内容を一言で言うと、胚培養士が胚の凍結を行う判断に患者背景が影響するのかを調べたものです。
胚の凍結は、日々観察を行い形態的に良好なものを選別して適切なタイミングで行っています。しかしながら我々も人間ですので、たとえ形態不良であっても受精卵を廃棄するには抵抗があります。過去に妊娠・出産した経験がある方の場合は「形態不良でも妊娠出来るかな?」と思ったり、逆に培養成績が芳しくない方の場合は「形態不良だけど凍結してあげたいな…」というのが心情です。ところが実際は、形態不良胚の妊娠率は患者背景に関わらず著しく低いというのが現実です。
今回紹介している演者らの施設では、凍結を行う胚培養士を“患者背景を考慮する群”と“患者背景をシャットアウトする群”に分けたところ、前者の場合に形態不良胚まで凍結する確率が高くなったとの事でした。
本発表を拝聴し、「どの国の胚培養士も同じ事に悩んでいるのだな…」と思うと同時に、患者様を思っての判断によって逆に妊娠までの期間を延ばす可能性がある事、特に日本の場合は保険の治療回数を消費する可能性がある事を痛感しました。

最後に一言付け加えさせていただきます。
当院の胚培養士は、皆様の背景をきちんと理解した上で、明確な基準に則って胚凍結を行っております。また、より多く良好胚を得るための研究を日々行っております。その点ご安心ください。今後も色々な視点の情報をインプット・アウトプットし、より良い治療に繋げて行きたいと思います。


アシステッドハッチングや卵子の細胞質置換などを考案されたJaques Cohen氏と。この分野のレジェンドです。現在はART全自動化システムの研究・開発に取り組まれています。

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